今回は前回に引き続き、旭川在住の
鳥居幸廣
さんと腎移植を受けられた息子さんのドナーである奥様の
裕美
さん、そして臓器移植の専門家・旭川医科大学の古川博之教授との対談の後編をお届けいたします。
ピアニストを目指す息子さんが突然の病に・・・迫られる透析か移植かの判断・・・家族の物語は、臓器移植の医療としての側面だけでなく、私たちがともすれば忘れがちな家族の「絆」について思い起こさせてくれます。
―スムーズに移植が出来たのは病院のスタッフにも恵まれたそうですが・・・
鳥居:医師には当然感謝しています。でも、同じ位に看護師さんそして移植コーディネータさんに感謝しています。コーディネータの方には今でも何かあればすぐに連絡しますし、それに対してすぐに適切な対応をして下さり本当に有り難く思っております。
古川
:よくわかります。患者さんが一番感謝しているのはやはり身近にいるコーディネータ。医師はどうしても専門用語を使ったりするので、患者さんも何かと相談しづらい。そういったとき、やはり何でも相談できるコーディネータの存在は大きいでしょう。彼女達は24時間常にオンコールの状態で、息つく暇なく働いていますが、まだまだ日本での認知度は低いですね。
鳥居:コーディネータさんに対する社会的地位や認知度の低いこと、待遇が仕事の大変さに追いついていないことなどに矛盾を感じています。それほど私達はコーディネータさんの献身的なサポートに助けられました。非常に重要な仕事だと思います。しかも人材が不足しているとお聞きし、驚きました。何かできないかと思っています。

―コーディネータが自分から声をあげることは中々難しい。やはり外にいる人が声をあげて、その重要性を訴えることが必要ですよね。
臓器移植の場合は、手術を受けた後も長いスパンで医師やコーディネータの方のフォローが必要ということもあり、
他の医療に比べて家族の方と医療関係者の方がよい信頼関係が築けていると感じます。
鳥居さんの場合はとてもスムーズに移植が
運んだわけですが、問題点は何か感じましたか。
鳥居:感じたことに、ドナー側へのケアがあまりにも少ないということがあります。腎臓を提供した方にはなんの保障もありません。生体移植については、健康なドナーの体を傷つけることにもなり、危険性もないではありません。本来の医療かどうか疑問に思うところも正直あります。勇気を持ってドナーになる決断をした家内へのフォローは何もないのですから。
古川:ドナーになることで、何ヶ月も会社を休まなくてはならず、それが原因となり結局は退職するケースもあります。公的な資金で手術後のフォローアップが必要だと思いますし、アメリカの優良な企業では既にこういった体制が整備されています。ドナーの方が死亡する例も稀にはありますし、生体移植はあまりにも負担が大きい。そういったことから海外ではもう下火なのです。医療側としても非常に疑問があります。

-では脳死移植・献腎移植が普及しないのは何故でしょう。
古川:同じアジアでも韓国では生体と脳死併せて1,000人くらいのドナーがでています。韓国はここ数年ですごく伸びました。日本が遅れているのは、医療従事者や関連する各分野でのシステム上の問題だと思います。例えば、医師の経験不足から意思確認や移植を見込んだ脳死判定を行わないケースも多いと見られます。
そんな中、北海道はドナーカード保持率が全国平均を上回っていますし、道民は移植に対する関心がとても高いという政府のアンケート報告もあります。
全国の学会に行っても「北海道はこうなんです」といつも胸を張ってプレゼンできます。
-今後の移植医療との関わりについて。
鳥居:旭川を中心に稚内や函館などを含め道内に現在17のマクドナルド店舗を持っています。店にはご家族連れから若い方まで様々な方が見えますので、各店舗で色々な形で普及活動を実施し、徐々に全道に広げていきたいと思います。また日本マクドナルドでは、子供の患者が手術などを待つ間に家族が安価で宿泊出来る施設「ドナルドマクドナルドハウス」をボランティアと共に札幌でも運営していますが、将来的にはその様な施設が増えればと思い、私なりに尽力できればと考えています。
裕美:息子がピアノをしているので、それがいかせられればと思います。例えば、コンサートの時にドナーカードを置いたりなど。先日、病院でピアノコンサートをさせて頂いたのですが、患者さんの前で息子が自分の体験をお話しし、これからもこういった活動ができたら、と言っていました。私自身としても、色々なところにいってお話したいと思っています。透析で苦しんでいる方や御家族の方に、こんなに元気になれるんですということをわかって貰えれば、実際に生体移植で悩んでいる方が決断できる一助になるかもしれません。献腎移植でも助けられるのだという理解も深まれば、ドナー登録しようかなと思う方もいらっしゃるかもしれません。
鳥居:北海道に来ることになったのも、息子が病気になったことで様々な方達にお会いできたのも、きっと何かのご縁だと思います。病気は大変なことではありますが、そこから得られたことも大きいものでした。
又、この経験から何よりも強く感じたことは、生体腎移植は決して最良の方法ではないということです。献腎移植こそ最優先されるべきであり、そのためにはやはり欧米並みのドナー登録数を確保しなければならないと感じました。普及促進のため私たちにできることがあれば、その為の協力は惜しみません。
古川:2010年7月17日、改正臓器移植法が施行されますが、それだけで臓器提供が増えるわけではなく、これまで以上の努力が必要と考えます。法改正により臓器提供の意思確認が当たり前になり、医師も経験を重ねることで、臓器提供が増えていくことを期待しています。今回はとても有意義なお話を伺えました。人と人との繋がりから、少しずつ移植医療への道筋をつけていければと強く思っております。
―皆さんありがとうございました。
家族の思いを受けて、息子さんのピアノの音色もやさしさが加わって、きっと一段と素晴らしいメロディーが紡ぎ出される
と思います。家族の一員が病気になると全員が大変な思いをする訳ですが、病気を乗り越えるのは家族の絆と確かな医療技術、
そしてそれを支える医療スタッフなんだと改めて感じました。
【鳥居幸廣さんプロフィール】
愛知県生まれ横浜育ち
日本マクドナルドに入社後、北海道に憧れ転勤願いを出し、36歳の時に札幌へ。4年間の札幌生活を経て、フランチャイズ展開を申し込み旭川にて起業。以来19年、旭川を拠点に17店舗のマクドナルドを経営する。
【鳥居裕美さんプロフィール】
京都生まれ鎌倉育ち。
息子さんの腎移植ドナーとして2009年1月手術をうける。
【古川博之さんプロフィール】
移植医療の先進地であるアメリカ・ピッツバーグで肝臓移植に従事。その後、日本へ帰国。豊富な移植経験を生かし、北海道大学病院勤務を経て2010年1月からは旭川医科大学 消化器病態外科学講座の教授に就任。