イベントレポートVol2
今回は旭川在住の 鳥居幸廣 とりいゆきひろ さんと腎移植を受けられた息子さんのドナーである奥様の 裕美 ひろみ さん、そして臓器移植の専門家・旭川医科大学の古川博之教授との対談を2回に渡ってお届けいたします。

ピアニストを目指す息子さんが突然の病に・・・迫られる透析か移植かの判断・・・家族の物語は、臓器移植の医療としての側面だけでなく、私たちがともすれば忘れがちな家族の「絆」について思い起こさせてくれます。



ー息子さんの病気について

鳥居:息子はピアノの勉強の為、ウィーンに留学していたのですが、留学2年目に血尿があり、検査の為に一度帰国しました。診断は「IgA腎症」*1。扁桃腺を取る治療法があり、入院後すぐに手術。その後状態はとてもよくなりました。彼が19歳の時です。

古川:その後病院の受診は?

鳥居:なかったんです。それが親として悔いの残すところであります。IgA腎症は突発的なものではないので、急激にすすむわけではないだろうと。生検*2の結果、腎臓のダメージは今のところ2割位と聞き、その言葉と扁桃腺を取ったことで安心してしまったのです。安心したというよりは安心したかったのかもしれません。その後、もっとちゃんとケアをしていればと今となっては後悔しておりますが、息子は手術のあとすぐにウィーンに戻りました。

古川:よほど悪くなるということを強く言われなければ病気への意識が消えてしまうのが普通。だから医師である私達が注意しなくてはいけないのです。実際はそうじゃなくても悪くなることがあることを強調しておかないと、良い方に解釈してしまうことが多いものです。

鳥居:その後、25歳の夏に息子はピアノコンクールの為帰国し、そのまま日本に滞在。体調は悪そうではあったのですが、ピンと来る自覚症状はありませんでした。その秋、層雲峡温泉に家族で出かけた夜に息子は頭が痛いと訴え、札幌に戻り鼻血が出て止まらなくなり、おかしいと気付いたんです。急遽入院となり、それからすぐに透析がはじまりました




  ー診断は腎不全。2008年11月29日に緊急入院、その後わずか10日で生体腎移植を決断し、
   2009年1月15日に手術。 ためらわずに移植を決意された、決断の早さに驚きました。
鳥居:最良の方法であること。これが移植を決めた理由です。色々な選択肢があることを医師やコーディネータからききましたが、これしかないと思いました。私も家内も長女も私の母も、自分がドナーになることにためらいはありませんでした。まあ、正直私は恐いなという気持もありましたが、家内は違いました。本当に強かった。

裕美:信じがたい現実でした。でもとにかく助けなきゃ!!というのが最初の思いでした。 ただそれだけです。私はここまで生きてきたのでどうなってもいい、でも息子はこれからですから。手術前、不安でいっぱいの息子を目の当たりにして、私がしっかりしなくては!絶対に助けなければ!と思いました。

鳥居:息子本人は病気のことを聞いてものすごいショックであったと思います。直接私達にはあまり言いませんでしたが、母親から片方の腎臓を貰うことにも相当苦しんでいたようです。コーディネータさんからは、息子が一時は「親からは臓器はもらわない。腹膜透析を受け、献腎移植*3を待つ」と言っていたと聞きました。

古川:臓器をもらうのが当たり前と思うのではなく、葛藤があるけれども、受け入れる方向に流れるのがベストであると思います。決断が早いのも良かった。献腎移植を待つと平均15年。15年はとてつもなく長いです。手術までの透析回数は少ない方が身体に良いというデータもでています。

鳥居:透析室を初めて訪れたとき、移植を選んでよかったと心から思いました。透析は本当に辛いと思います。時間の拘束、食事等の制限もあるし、身体の調子も悪い。息子も透析直後は本当に辛そうでした。

裕美: 手術が無事おわった翌日、まだ歩けない私の病室まで息子は歩いてやってきました。「お袋、ありがとうな・・・」ありがとうって2回言われました。胸にグッときました。

鳥居:病気をしたことで家族愛、親子愛をあらためて感じることができました。ウィーンと日本で離れていた10年間近くを一気に取り戻せたような気がします。15歳の息子が一人でウィーンに行ったことを私は誇りに思い、喜んでいました。でも、異国の地での一人での生活。食事の面など十分とは言えない状況だったと思います。定期的なケアがあれば・・・。そんな思いもあり私たちは移植に対してなんの躊躇もありませんでした。

昨年の家内の誕生日、手術後ウィーンに戻っていた息子から花束が届いた。添えられていたカードの文字を見て家内も私も涙しました。「お母さん、二度の命をありがとう」。

家内も息子も今は本当に元気です。移植したものが永久にもつわけではないですし、不安も勿論あります。ですが、5年、10年もつというのを考えるのではなく、普通の生活ができればいいと願っています。その間に医療がまた進歩してくれるでしょう。



  ―家族の絆の強さが伝わってきました。皆さんお忙しい中、今日はありがとうございました。 また次回もよろしくお願いいたします。
鳥居幸廣さんプロフィール
愛知県生まれ横浜育ち
日本マクドナルドに入社後、北海道に憧れ転勤願いを出し、36歳の時に札幌へ。4年間の札幌生活を経て、フランチャイズ展開を申し込み旭川にて起業。以来19年、旭川を拠点に17店舗のマクドナルドを経営する。
鳥居裕美さんプロフィール
京都生まれ鎌倉育ち。
息子さんの腎移植ドナーとして2009年1月手術をうける。
古川博之さんプロフィール
移植医療の先進地であるアメリカ・ピッツバーグで肝臓移植に従事。その後、日本へ帰国。豊富な移植経験を生かし、北海道大学病院勤務を経て2010年1月からは旭川医科大学 消化器病態外科学講座の教授に就任。

*1…IgA腎症
腎臓の糸球体に免疫グロブリンのIgAという蛋白が沈着する慢性の糸球体腎炎。腎生検により診断。好発年齢は10代後半から30代前半。患者は男性に多い。蛋白尿や血尿で発見され、進行すると腎機能が低下し、食欲低下や息切れといった腎不全の症状がでる。

*2…生検
病変のある臓器から組織を一部取り出し、顕微鏡で観察する検査。腎生検の場合は、背中に細い針を刺し、腎臓の組織の一部を採取。尿・血液検査、画像等では診断が不十分なことも多く、更に正確な診断と治療法の決定の為に行う検査。

*3…献腎移植
亡くなった方(脳死or心臓死)から善意で提供された腎をいただき移植するもの。一人のドナーから腎臓が2個とも提供されれば、ふたりの人が腎臓移植を受けることができる。 献腎移植を受けるためには、日本臓器移植ネットワークへの登録が必要。